早わかり財政

今回より、財政赤字について考えます。最近、日本の財政赤字は先進国で最悪だ、国の多額の借金が将来の国民の負担となる、などといわれています。

この連載講座では、まず、財政の仕組みについて簡単に説明し、次に、日本の財政の支出と収入の現状を説明します。そして、次に、日本の財政赤字の現状を明らかにします。そして、さらに財政赤字と累積した公的債務(借金)が経済に及ぼす影響について議論します。

経済に及ぼす影響として、まず、公的債務が将来の負担となるかどうかという負担議論を整理します。そして、次に、将来の負担増加が人々の消費に与える影響について、リカード=バローの中立命題という考えを用いつつ検討します。そして、国債の大量発行が金融市場に及ぼす影響について検討し、最後に、いかにして財政再建すべきかという政策論について考えます。

(目次)

1.財政の仕組み
2.財政の支出
3.財政の収入
4.日本の財政赤字の現状
5.国債の負担論
6.国債の経済に与える影響




■■ 1.財政の仕組み ■■

財政の仕組みは非常に複雑で、多岐にわたりますが、ここでは、国家予算と国債についての基礎知識の一部をご紹介します。

まず、予算についてお話しします。

予算とは、国の収入と支出の見積もりです。予め計算するから「予算」です。この予算には、年度前に作る通常の予算(本予算、あるいは当初予算と呼ばれます)の他に、暫定予算、補正予算があります。

暫定予算とは、新しい年度の始まる前に予算が成立しないときに(予算がないと、新年度から困ってしまいますので)必要な範囲で暫定的に作る予算です。ですから、暫定予算は、本予算が成立すればなくなります。

補正予算とは、年度の途中で、天変地異や経済状況の変化や政策の変更により、当初の予算を執行することが不可能であったり不適切であるときに、本予算の内容を変更する予算です。この補正予算は、毎年のように行われています。昨年平成11年度は、第1次補正予算、第2次補正予算と、2回の補正予算が組まれています。

以上のような予算は、大蔵省が各省庁の要求を取りまとめ、閣議で決定し、国会の議決を経て成立します。

次に、国債についてお話しします。

国債とは、国の発行する債券です。では、債券はというと、国や企業が資金調達の際に発行する有価証券なのですが、要するに、借金するときに発行する借用証書みたいなものです。ですから、債券の発行というと格好よいのですが、要は借金をするということです。また、債券の場合には、借金を返済することを償還するといいます。ですから、返済日は償還日と呼びます。

また、国債には、建設国債と赤字国債の2種類があります。建設国債とは、主に公共工事に使われるために発行される国債で、赤字国債とは、財政赤字を補填するために発行される国債です。

国家財政の基本を定めた財政法では、第4条において、公共工事などに充当する場合にのみ国債を発行できるとし、建設国債しか認めていません。ですから、財政法上は、赤字国債は発行できません。これは、建設国債は、公共工事など将来にメリットを残すので国債発行(=借金)という形で将来に負担がかかっても容認できるが、財政赤字を補填する赤字国債は、将来にはメリットを残さないのに国債の償還(=返済)という負担だけを負わせるので認めない、という姿勢です。

このような財政法の規定にもかかわらず、例年、赤字国債が発行されています。なぜ、そのようなことができるかというと、毎年、財政法では認められていないのだけれども、今年は特例として赤字国債を発行するという法律(特例法)を作っているのです。ですから、赤字国債を特例国債と呼ぶこともあるのです。

★キーワード★
予算
国の収入と支出の見積もりです。予め計算するから「予算」です。この予算には、年度前に作る通常の予算(本予算、あるいは当初予算と呼ばれます)の他に、暫定予算、補正予算があります。予算は、大蔵省が各省庁の要求を取りまとめ、閣議で決定し、国会の議決を経て成立します。

当初予算(本予算)
年度前に作る通常の予算。

暫定予算
新しい年度の始まる前に予算が成立しないときに(予算がないと、新年度から困ってしまいますので)必要な範囲で暫定的に作る予算です。ですから、暫定予算は、本予算が成立すればなくなります。

補正予算
年度の途中で、天変地異や経済状況の変化や政策の変更により、当初の予算を執行することが不可能であったり不適切であるときに、本予算の内容を変更する予算です。この補正予算は、不景気な最近では景気対策として毎年のように行われています。

国債
国の発行する債券です。では、債券はというと、国や企業が資金調達の際に発行する有価証券なのですが、要するに、借金するときに発行する借用証書みたいなものです。ですから、債券の発行というと格好よいのですが、要は借金をするということです。

建設国債
主に公共工事に使われるために発行される国債。国家財政の基本を定めた財政法では、第4条において、公共工事などに充当する場合にのみ国債を発行できるとし、この建設国債しか認めていません。これは、建設国債であれば、公共工事など将来にメリットを残すので国債発行(=借金)という形で将来に負担がかかっても容認できるという考えからです。

赤字国債
財政赤字を補填するために発行される国債です。財政法上規定がなく認められていません。しかし、毎年、財政法では認められていないのだけれども、今年は特例として赤字国債を発行するという法律(特例法)を作って赤字国債が発行されています。ですから、赤字国債を特例国債と呼ぶこともあるのです。


■■ 2.財政の支出 ■■

今回は、国家予算のうち、支出について解説します。

日本の国家予算の支出(財政支出)は、平成12年当初予算で約85兆円です。この85兆円の内訳を、金額の多い順に並べてみましょう。

一番金額が多いのは、社会保障でも公共事業でもありません。国債の償還や利払いにあてられる国債費です。この国債費の比率は25.8%と約4分の1にも上ります。つまり、日本という国は、財政支出の4分の1を借金の返済と利払いにあてているということです。

二番目に多いのが、社会保障で財政支出の19.7%を占めます。

三番目が地方交付税交付金です。地方交付税交付金制度とは、地方の財政力の格差を是正するために、国税収入の一部を地方に配分する制度です。この地方交付税交付金は支出全体の17.6%です。

続いて、公共工事11.1%、文教および科学振興7.7%、防衛関係5.8%、となります。

以上より、日本の財政支出の最大の特徴は、4分の1が国債費であることですが、国債費は借金の返済と利払いなのですから必ず行わなくてはならないのですが、このように国債費が膨らんでしまうと、新たな政策に対して自由に予算を配分できなくなってしまいます。このような状況を「財政の硬直化」といいます。

★ポイント★

日本国の平成12年度当初予算(支出)----約85兆円
1.国債費       25.8%---->財政硬直化の原因
2.社会保障      19.7%
3.地方交付税交付金  17.6%-----地方の財政力格差を税制する目的で地方に交付
4.公共工事      11.1%
5.文教、科学振興    7.7%
6.防衛関係       5.8%

★ キーワード★
国債費
国債の償還や利払いにあてられる支出。

地方交付税交付金
地方の財政力の格差を是正するために、国税収入の一部を地方に配分する資金。

財政の硬直化
日本の財政支出の最大の特徴は、4分の1が国債費であることですが、国債費は借金の返済と利払いなのですから必ず行わなくてはならないのですが、このように国債費が膨らんでしまうと、新たな政策に対して自由に予算を配分できなくなってしまいます。このような状況を「財政の硬直化」といいます。


■■ 3.財政の収入 ■■

今回は、国家予算のうち、収入について解説します。

前回お話ししたように、日本の国家予算の支出(財政支出)は、平成12年当初予算で約85兆円でした。この85兆円をどのように調達しているかというのが、国家の収入です。

平成12年度当初予算の収入を多い順に並べると、

1.租税および印紙収入(税収)49兆円 (57.3%)
2.公債金(借金)      33兆円 (38.4%)
3.その他収入         3兆円 ( 4.3%)
------------------------------------------------------
合計           85兆円            となります。

税収では、6割くらいしか賄えず、4割弱は公債金(借金)に依存しています。

なお、税収は、景気が良いと個人も法人も儲かるので税金を多く払い、増加します。逆に、現在のように景気が悪くなると、個人も法人も儲からないので税金があまりかからず、税収は減少します。ちなみに、バブル期の平成2年度の税収は、60兆円ですから、現在よりも11兆円も多かったことになります。

また、「3.その他収入」とは、政府資産売却益や雑収入などです。

★ ポイント★

1.財政収入の4割弱は国債発行による借り入れ。


■■ 4.日本の財政赤字の現状 ■■

財政赤字の問題といったときに、次の2点に気をつける必要があります。
(1)単年度の財政収支(黒字、赤字)を意味するのか、今までの赤字が積もり積もった債務残高(=借金残高)を意味するのか。
(2)国の赤字や債務残高なのか、国と地方を合わせた赤字や債務残高なのか。

以上2点に注意しながら、日本の財政赤字の現状を概観しましょう。

平成12年度の国の債務残高は485兆円、国と地方の債務残高は645兆円です。日本の国内総生産(GDP)は約500兆円ですから、国と地方の債務残高はGDPを大きく超えています。また、人口は約1億3千万人弱ですから、国と地方の債務残高は、国民一人あたりでは約500万円となります。

このような日本の財政赤字は、国際的にも先進国の中で最悪となっています。まずは、1年間の財政収支(黒字、赤字)がGDPに対してどのくらいの大きさかを比較しましょう。
<国および地方の財政収支(対GDP比)>
     1995 2000   (+は黒字、-は赤字)
日本    -6.4% -10.1%  最悪。赤字は拡大し、債務は毎年大幅に増加中。 
米国    -3.9% -0.6%  連邦政府は黒字だが、地方を合計すると若干の赤字。
カナダ   -4.3% +1.6%  地方と合計しても黒字。債務を削減中。
イギリス  -5.8% +0.8%
ドイツ   -3.2% -1.2%  
フランス  -5.6% -1.7%  
イタリア  -7.6% -1.6%  かつては最悪の財政赤字国。現在は、赤字をかなり削減。
(出所 経済協力開発機構 経済見通し1999.12)

まず、日本の財政赤字が最悪の状態とわかります。おおまかにみれば、1995年には日本も欧州諸国もそれほど赤字の比率は変わらなかったのですが、その後、欧州諸国は赤字の比率が減少し、日本は反対に増加しています。これは、欧州諸国が、財政赤字のGDPに占める比率が3%以内という統一通貨ユーロへの参加条件を満たすため財政赤字削減に努力した結果です。また、アメリカは好景気が税収増加となり、財政赤字が削減されました。一方、日本の場合、長引く不況対策としての減税や政府支出拡大により、財政赤字の比率が上昇してしまいました。

では、次に、国および地方の債務残高がGDPに対してどのくらいの大きさかを比較しましょう。

<国および地方の債務残高(対GDP比)>
     1995 2000
日本    76%   114.1%  イタリアと並んで最悪。増加中。 
米国    68.3%  57.1%  
カナダ   99.2%  82.5%  財政黒字で返済しているので、債務が減少。
イギリス  58.9%  51.2%
ドイツ   59.1%  61.7%  
フランス  59.4%  64.6%  
イタリア  123.1%  115.2%  日本と並んで最悪。
(出所 経済協力開発機構 経済見通し1999.12)

まず、2000年時点で日本の債務残高の比率がイタリアと並び最悪の状態とわかります。このままで行けば、イタリアを追い越し、日本がダントツで債務比率が大きい国になってしまいます。

そういえば、かつて、10年くらい前は「イタリアの財政はほとんど破綻だね。やっぱりイタリア人は陽気で楽天的だからね。」などと言う人がいましたが、今では、海外から「日本の財政は破綻に向かっているんじゃないの」と言われる始末です。数字を見ると、そのようにいわれることが納得できるのではないでしょうか。

では、このように借金だらけの財政ですが、その負担は最終的に誰がどのような形で被るのでしょうか。次回は、「6.国債の負担」についてお話しします。

★ポイント★
1.国および地方の財政赤字は対GDP比で約10%、先進国で突出して最悪。
2.日本の国および地方の債務残高は約700兆円でGDP(約500兆円)を大きく上回る。先進国でイタリアと並んで最悪の状況。


■■ 5.国債の負担 ■■

財政赤字とは、財政収入(税収)より財政支出が多いので借金している、という
状態です。借金は将来返済しなくてはならず、増税や支出の削減により財政を黒
字とし、その黒字で返済することになります。

したがって、現在発行する国債の負担は将来の増税という形で将来の負担となり
ます。ですから、国債は世代間の負担の問題といわれます。つまり、現在世代の
財政赤字の負担は将来世代が負うことになり、親の借金を子が払うようなものだ
という意味です。

国債は将来の増税という意味では、将来世代の負担となります。したがって、財
政法では望ましくないとして、国債発行を行わないことを基本としています。

しかし、私達の身近な例を考えてみると、親の借金を子が支払ってもおかしくな
い場合があります。住宅の親子ローンなどがその例です。住宅は親だけでなく、
子もその後住むのだからメリットを受けるので、借金の一部の返済を行うという
ものです。

これは、財政でいうと公共工事により道路やダムを作ることがこれにあたります。
道路やダムは将来に残り、将来世代に恩恵をもたらすので、将来世代にも負担し
てもらっても良いだろうということになります。

ですから、財政法では、第4条において、公共工事などに充当する場合にのみ発
行できる建設国債しか認めていないのです。

以上が、財政法という財政の基本を定めた法律が前提としている考えです。

しかし、この考えは、公共工事などが将来世代に恩恵をもたらすという前提で成
り立つ議論です。誰も使わない農業空港や、公共施設などを作るなら、将来世代
の役に立たないので、国債発行は望ましくないといえます。もっとも、そのよう
なものは現代世代も負担すべきではなく、もともと行わないほうが良いと言えま
すが。

★ ポイント★
1.公共工事により道路やダムを作ることは将来に残り、将来世代に恩恵をもたらすので、国債発行により借金をし、将来世代にも負担してもらっても良いというのが財政法の基本的考え。
2.しかし、公共工事が誰も使わない農業空港や、公共施設などを作るなら、将来世代
の役に立たないので、国債発行は望ましくない。


■■ 6.国債の経済に与える影響 ■■

財政支出の拡大や減税などの景気対策を行えば、財政は赤字となり、資金不足となるので、国債を発行して借金により資金を調達します。これを、「国債発行による減税」「国債発行による財政支出の拡大」といいます。

ケインズの理論では、不況でGNP(国民総生産)が小さいときに、「国債発行による減税」を行えば、国民の税引き後の所得が増えるので消費が増加し、企業の需要(注文)が増え生産が増加し、GNPは増加します。

また、「国債発行による財政支出の拡大」を行えば、やはり、企業の需要が増え生産が増加し、GNPは増加します。GNPが増加すれば、国全体の生産量が多くなるので、人もたくさん雇われるようになり失業もなくなります。

しかし、以上の議論には、国債の経済効果が入っていません。今回は、ケインズが考慮しなかった国債の経済効果を考えます。

まず、国債は国の借金であり、将来、国民から増税で資金を集めて返済しなくてはならないという面があります。ですから、国債を発行して減税を行っても、どうせ将来増税を行うのだから、長い目で見た税金は変わらないと国民が考えると、減税の効果はなくなってしまいます。

つまり、今減税をしても将来増税になるのだから、今うかうかと消費を増やしてお金を使ってしまうと将来の増税時に困ってしまうので、消費を増やさないということです。

このような考えにたつと、国債発行による資金調達は将来の増税なので、現在増税で資金調達するのと何も変わらないということになります。このような考えを「リカード=バローの中立命題」といいます。リカード、バローとは主張した学者の名前です。

現在の日本の場合、財政が危機的状況にあることから、国民は将来の増税についての不安を持っています。それによって、消費は抑えられる傾向があるのであれば、リカード=バローの中立命題が指摘する効果が働くことになります。

ほかにも、フリードマンという学者の指摘した資産効果という議論もあります。

国債とは、政府にしてみれば債務なのですが、国債を保有している国民にしてみれば、毎年の利子がもらえ期日には返済してもらえる権利ですから、資産です。

ということは、国債を発行すれば、国民の資産が増えるということです。資産が増加すれば、消費が増加し、景気がよくなっていくという面があります。と同時に、国債という資産が増えれば、それに見合って人々は多くの貨幣を持ちたがり、貨幣需要が増加する結果、貨幣のレンタル価格である利子率が上昇し投資が減少し、景気が悪くなる面もあるという指摘です。

いずれにせよ、これだけ国債発行残高が大きくなると、国債の経済に与える影響も重要になってきます。

★ポイント★
1.ケインズの理論では、不況でGNP(国民総生産)が小さいときに、「国債発行による減税」や「国債発行による財政支出の拡大」を行えば、企業の需要が増え生産が増加し、GDPは増加する。GDPが増加すれば、国全体の生産量が多くなるので、人もたくさん雇われるようになり失業もなくなる。
2.しかし、国債発行による資金調達は将来の増税なので、現在増税で資金調達するのと何も変わらない。(リカード=バローの中立命題)
3.国債を発行すれば、国民の資産が増える。資産が増加すれば、消費が増加し、景気がよくなっていくという面と、国債という資産が増えれば、それに見合って人々は多くの貨幣を持ちたがり、貨幣需要が増加する結果、貨幣のレンタル価格である利子率が上昇し投資が減少し、景気が悪くなる面もある。(フリードマンの資産効果)
4.以上のように、国債が増えること自体が経済にさまざまな影響を与える可能性がある。

★キーワード★
リカード=バローの中立命題
国債は国の借金であり、将来、国民から増税で資金を集めて返済しなくてはならないという面があります。ですから、国債を発行して減税を行っても、どうせ将来増税を行うのだから、長い目で見た税金は変わらないと国民が考えると、減税の効果はなくなってしまいます。つまり、今減税をしても将来増税になるのだから、今うかうかと消費を増やしてお金を使ってしまうと将来の増税時に困ってしまうので、消費を増やさないということです。
このように、国債発行による資金調達は将来の増税なので、現在増税で資金調達するのと経済効果は何も変わらないという理論を「リカード=バローの中立命題」といいます。リカード、バローとは主張した学者の名前です。

国債の資産効果(フリードマン)
国債とは、政府にしてみれば債務なのですが、国債を保有している国民にしてみれば、毎年の利子がもらえ期日には返済してもらえる権利ですから、資産です。ですから、国債を発行すれば、資産が増加し、消費が増加し、景気がよくなっていくという面があります。と同時に、国債という資産が増えれば、それに見合って人々は多くの貨幣を持ちたがり、貨幣需要が増加する結果、貨幣のレンタル価格である利子率が上昇し投資が減少し、景気が悪くなる面もあるります。これら2つの経済効果を国債の資産効果といいます。マネタリストのフリードマンの考えです。